日和佐 発心の会

徳島県海部郡美波町の地域づくり団体です。

『弱いつながり-検索ワードを探す旅』/東浩紀

『弱いつながり-検索ワードを探す旅』/東浩紀

 

 

本日は、「美波町門前町再生交流オフィス」の無人古本屋で販売中の『弱いつながり-検索ワードを探す旅』の紹介をします。

 

著者の東浩紀さんは、1971年東京生まれの哲学者・批評家で「株式会社ゲンロン」の創業者でもあります。近年は「合同会社シラス」でも活動を行なっています。東さんは大学などの教育機関には身を置かず、独自の方法によって哲学という分野でマネタイズを行っているという意味において先駆的な人物だと言えます。

 

本書ではインターネット社会における我々の生き方について警鐘を鳴らしています。

 

インターネット関連で「フィルターバブル」という言葉があります。それはインターネットの提供するアルゴリズムユーザーの見たくない情報を遮断するという機能です。

 

つまり、インターネットの到来で個人が多様な情報にアクセスできたり、多様な人たちとの関わりを持つことができるというふうに思われがちですが、結果的には個人は「自分が見たいものしか見なくなっている」というわけです。

 

しかし、インターネット側に規定された世界でしかものを考えられないからといって、今日において我々はインターネットから離れて生活を行うことはできません。だとすれば、その統制から逃れる方法は「グーグルが予測できない言葉を検索すること」だと東さんは主張しています。

 

そのためには環境を意図的に変えて、現地での事物に触れて思いつくこと、欲望することそのものが変わる可能性に賭けることが重要だと述べています。この本ではこういった行動を「観光」と表現しています。

 

著者は大学院時代に「ジャック・デリダ」の研究を行っていたこともあり、

本書の内容を「観光によって主体をずらす」という試みだと捉えると、ポストモダン思想の影響を強く受けているんだなと感じました。また浮世離れした思想だと捉えられがちな「逃走」や「差延」といったポストモダン思想を「観光」という明快な言葉で現代に落とし込む技巧は流石です。

 

 

この本を読んで、「インターネット」は個人にオリジナリティーを生み出しにくくしている反面、その社会で成果を生み出すにはオリジナリティーが重要な要素であるという意味において、我々は非常に難しい時代に生きているんだと感じました。

 

本書では「観光」という言葉でその処方箋が提示されていますが、もう少し抽象的な言葉にすると「偶然性に身を委ねる」という提案をされているのだと思います。

 

 

ビジネスの世界でも偶然の力を活用することで、固有性を獲得するという考えがよく用いられます。

 

最も有名な事例は「ポストイット」開発の話しでしょう。

ポストイット」はスリー・エムという企業が強力な接着剤の研究をしていた時に「よく付くけど、簡単に剥がれてしまう」接着剤が失敗作としてできてしまい、ある研究員が「この接着剤を、本に貼り付けるしおりで使えるのではないか」と閃いたことが製品化するきっかけでした。

 

このような「偶然の幸運を手に入れる力」のことをセレンディピティSerendipityといいます。

 

「日和佐 発心の会」では地域にあるものを無条件に引き受けることで、その他の地域にはない固有性を生み出そうという方法をよく用います。例えば、我々の活動拠点である「美波町門前町再生交流オフィス」の入り口に設けた無人古本屋では、地域の廃材を利用して本棚を制作しました。

無人古本屋の本棚

 

 

通常は完成品の設計をもとに材料を集めて本棚の制作を行うというプロセスを用いますが、我々は地域で手に入る廃材を手当たり次第に集めて、集まった廃材からどのような本棚がつくれるかを考えて制作をしました。

地域で集めた廃材

 

 

この計画では通常の制作プロセスを逆転させ意図的に偶然性を生じさせることで、固有の特色を持った本棚が制作できるのではないかと考えたわけです。

 

ちなみに『弱いつながり-検索ワードを探す旅』のお値段は500円になります。立ち読みOKですので、お気軽に遊びに来てくださいね!

本棚

 

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