「日和佐 発心の会」の活動について
【日和佐 発心の会】
徳島県海部郡美波町にある四国霊場23番札所・薬王寺の門前町は、大正期に桜が植えられたことに由来し、桜町通りと呼ばれています。
桜町通りはかつて遍路宿や飲食店が立ち並んでいましたが、過疎化や郊外店の進出で次第にお店が減っていきました。
そういった経緯から、2015年4月に桜町通りの活性化に取り組む「日和佐 発心の会」が設立しました。
メンバーは20代から60代までの男女21名で、美波町の地域住民がボランティアとして休日に集まって活動を行います。従来は、生活道路となっていて交通量の多い桜町通りに交通規制をかけて、新年の無病息災を祈願する薬王寺の初会式や毎年恒例の日和佐さくらまつりなどのイベントに合わせて、地元産品や手工芸品を販売する「手作り物の市」を開催し、地域コミュニティーの活性化を進めていました。
また移住者と空き店舗の所有者を仲介することにも積極的に関わり、カフェや宿泊施設の開業へと繋げていきました。「日和佐 発心の会」が発足した2015年から2020年の間、桜町通りでは7店舗のお店が新たにオープンしました。
そういった活動を通し、徐々に桜町通りを訪れる観光客が増え、地域に賑わいが生まれていきました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響により桜町通りを訪れる観光客は減少し、毎年行なっていたイベントも中止しなければなりませんでした。
そんな中でも会員たちで積極的に話し合いを続け、
・コロナ禍という状況に対応しながら、地域の特徴を掘り起こし観光客や地域の人たちに新しい美波町の魅力を再発見してもらうために活動を行なっていくこと
・「日和佐 発心の会」としても収益を上げて、安定したまちづくり活動を行なっていくこと
という2つの方針で新たに活動を開始しました。
【コロナ禍における地域づくり活動】
- ウミガメマスクの商品開発計画(商品開発・地域の連携・魅力の再発見)
私たちが定期的に行なっている地域の魅力を探すためのまち歩きで、道の駅日和佐の包装紙として使われている町出身の挿絵画家「橋本シャーン」氏が描いたウミガメの絵を発見しました。
コロナ禍でマスクの着用が日常となっていたので、私たちは美波町のシンボルキャラクターでもあるウミガメの絵があしらわれたマスクの商品開発を考えました。「橋本シャーン」氏は2019年に亡くなられたので、まずは親族にウミガメの絵の使用許可を得ることからスタートしました。
使用許可を得てからは、桜町通りにある縫製工場とデザインの検討を重ね商品化しました。
製作したマスクは、薬王寺の厄除御祈祷をして「厄除け御祈祷済ウミガメマスク」として道の駅日和佐や日和佐ウミガメ博物館カレッタで販売しました。
販売当初から売れ行きは好調で、大きな収益源となりました。さらに、地域のお店や縫製工場、寺院と連携して商品価値を高めることは美波町の商品開発における好事例となりました。
桜町通りの入り口周辺に位置する元JAバンクATMの改修を行なって、地域の魅力を発信するギャラリー「Art Tourism Museum 373 」(通称:ATM)を制作しました。
電気工事以外はすべて会員の手作業で行い、ギャラリー内には地域を紹介する動画や地図、観光パンフレットコーナーを設けました。
この施設が完成したことによって、薬王寺の門前町でありながら参拝客の出入りが乏しいという桜町通りの問題が解決へと前進しました。また改修を行なったATMの隣に持ち主の花壇を整備し、その場所は地域コミュニティーを育む場所として機能しています。
「日和佐 発心の会」の活動拠点と、桜町通りの地域活性化のための施設として「美波町門前町再生交流オフィス」を開設しました。
このことにより地域での位置付けが明確になったとともに、建物の土間空間に地域の廃材で作った本棚を設置して地域に開放したライブラリースペースとしました。
2021年度からは桜町通りの入り口に位置するこの場所で電動バイクのレンタルサービスを開始しました。
それによって自然がコンパクトにまとまった地域の魅力を存分に味わうことができ、またコロナ禍であっても安心・安全に美波町を観光するための受け皿ともなっています。さらに薬王寺に偏りがちな観光客を薬王寺の門前町である桜町通りから、その他の観光資源に誘客する効果も期待できます。
4.今後の展望(ストリートファニチャー・店舗の改修・住民による地域づくり)
「日和佐 発心の会」では、今後も桜町通りの活性化を目指しながら地域づくり活動を行います。現在は桜町通りを訪れた人が、屋外で交流や飲食ができるようにお店の軒下などにストリートファニチャーを設置する計画を行っています。
ストリートファニチャーを設置することによって 屋外での飲食が可能となり感染症防止策に繋がり、地域の景観やコミュニティーの活性化の効果も期待できます。
また桜町通りの既存店舗や廃業した店舗の改修作業を行なうという話も出ており、実現に向けて準備を行なっています。これからも地域で生活する人の切実な問題意識や考えに寄り添い、一人一人のある程度やれることを掛け合わせて活動を行なっていこうと考えています。
『文学部の逆襲-人文知が紡ぎ出す「大きな物語」』/波頭亮
本日は、「美波町門前町再生交流オフィス」の無人古本屋で販売中の『文学部の逆襲-人文知が紡ぎ出す「大きな物語」』の紹介をします。
作者の波頭亮さんは愛媛県出身、東京大学経済学部を卒業後マッキンゼーを経て、経営コンサルタントとして独立された戦略系コンサルタントの第一人者です。
その経歴から意外に思われるかもしれませんが、本書では資本主義(新自由主義)に対して警鐘を鳴らしています。
著者によると、今日の日本(経済成長が止まった国)において「市場のメカニズム」の尊重のみで経済政策を行うと富裕層と貧困層の格差がどんどん拡大していき、貧困層が多数生まれ、そうした階層が固定化してしまい、
それによって、一部に集中した資本が政治やメディアを買収し、社会を構成する人々たちの手で国家のあり方を決定するはずの「民主主義」が機能不全に陥ってしまうとのことです。
波頭さんは資本主義と民主主義の危機を乗り越えるために重要なこととして、「テクノロジー」と「物語」という2つのキーワードを挙げています。
テクノロジーは人々の生活や生産行動において何ができるのかを物理的に規定するが、どのような世の中が望ましいか、どのような生活と人生を送りたいのか、何が善で何が悪かといった世の中のあり得べき姿を描き出すのが物語である。(p.142)
「文学部の逆襲」というタイトルには、資本主義と民主主義が機能不全となり、AI技術の浸透がますます加速していくこれからの時代において、「文学部」という人文領域こそが人類を次のステージに動かす主役となっていくだろうという予感が込められています。
この本を読んで、『大きな物語』は人々の感動や共感がもとになって初めて実現していくものだとすると、その実現の基盤には物語自体のクオリティーだけなく、それにひもづいた『小さな活動』の積み重ねが必要となってくると思いました。
そういった考えは地域づくりをするなかで形成されていきました。
例えば、その場所で生活する人に地域の今後のビジョンをぶつけたとしても、その方の考えている異なったビジョンと水掛け論になります。そういった実体験から、まずは自分の考える『大きな物語』に沿った『小さな活動』を行い、実際の現場を通じて共感を生み出していくしかないと考えています。
たとえば、「日和佐 発心の会」には薬王寺の参拝客を桜町通りやその他の観光資源に誘客するというビジョンがあります。
そのビジョンから、2021年2月には薬王寺前の元JAバンクの空き家を改修して桜町通りを紹介するためのギャラリー「Art Tourism Museum 373」(通称:ATM)を開設しました。
また、2021年4月からは桜町通りに訪れた観光客が広域の観光資源にスムーズにアクセスしていただけるように、桜町通りの入り口周辺で電動バイクのレンタル事業を開始しました。
そうやって小さな活動を継続的に起こしていくことで2022年3月には、桜町通りの住民たちで通りに飾り雛を設置する活動などが行われ、少しづつではありますが地域に我々が考えるビジョンが浸透してきたというふうに実感しています。
ちなみに『文学部の逆襲-人文知が紡ぎ出す「大きな物語」』のお値段は500円になります。立ち読みOKですので、お気軽に遊びに来てくださいね!
「ミナミまちめぐり」を通じて
2021年4月から「日和佐 発心の会」が中心となって桜町通りの入り口周辺に位置する美波町門前町再生交流オフィスで電動バイク「BLAZE SMART EV」のレンタルサービスを開始しました。
電動バイクレンタル事業の目的は、薬王寺に集中しがちな観光客を町内のその他の観光資源に誘客すること。そして、コロナウイルスの世界的な蔓延に伴い観光客に密を避けながら美波町を楽しんでもらうことです。
「BLAZE SMART EV」は電気を動力として走行する原動機付自転車で、最高速度は30km/h・航続距離は30kmです。
貸し出し台数は3台で、料金は1台1時間あたり2,000円(インスタグラム投稿で1台あたり500円引き)・平日乗り放題2台5,000円、3台4,000円です。
またレンタル利用者には、電動バイク専用地図・自撮り棒・バブルカメラの無料貸し出しを行っています。電動バイク専用地図は、大浜海岸沿いを巡る[かめたろうコース]、南阿波サンラインを巡る[かめじろうコース]、桜町通り周辺の飲食店や日和佐うみがめ博物館カレッタを巡る[かめこコース]の3種類用意しており、利用者は地図を参考にしながら自由に美波町を観光します。
利用人数は2021年4月8日〜2022年3月31日の期間で約100名でした。
またメディア掲載実績としてはテレビ出演6回、ラジオ出演3回、新聞掲載6回、広報・雑誌・ネット記事掲載14回と多くの方に事業を知っていただきました。
約1年間の実証実験を通じて、電動バイクレンタル事業の3つの課題が浮かび上がりました。
[課題1]
1つ目の課題は気候の影響を受けやすいということです。
電動バイクを乗るうえでの魅力として「風や自然を感じる爽快感」が挙げられる反面、気候によって利用者数の変動が生まれやすいという課題があります。そのため、12月〜2月の寒冷期は利用者数が他の月と比べると非常に少ないです。また「BLAZE SMART EV」には防水機能がないため雨天の場合は休業となり、悪天が続いた8月の利用者数はわずか3組でした。
雨天での営業方法については打つ手がなかったですが、寒冷期に関してはインスタグラムのフォロワー数1,000以上の方に無料で電動バイクに乗っていただきSNSで発信してもらう「インスタグラマーキャンペン」を行いました。そのキャンペーンでは5組の参加者があり、結果的にその参加者の投稿で電動バイクのレンタル事業を知ったというお客さんも現れました。
一般の利用者の約6割がインスタグラムを通じてサービスを知ったということを踏まえると、閑散期は発信に集中した営業形態に切り替えるということも有効な手段の一つであると思います。
[課題2]
2つ目の課題点は運転免許が必要ということです。
「BLAZE SMART EV」の車両区分は原動機付自転車なので、運転するためには普通免許(原動機付自転車免許、普通自動二輪車免許、普通免許など)が必要です。
そのため子連れの観光客の場合は電動バイクの利用が困難です。
美波町の「薬王寺」や「日和佐うみがめ博物館カレッタ」では子連れの観光客をよく見かけるため、子供・家族向けにモビリティ事業を展開することの重要性は高いと考えます。
例えば、兵庫県城崎温泉の「株式会社たびぞう」では運転手1名で3人乗りの電動モビリティ「VEHICLEFUN ETT-BK」のレンタルサービスを行っています。このモビリティであれば子連れだけではなく、乗り物の運転が困難な高齢者や障害者連れの観光客の受け皿になることも期待できます。
このように今後新たな電動モビリティを導入することで、モビリティを利用した観光の敷居を下げるということも可能性としてあると思います。
[課題3]
3つ目の課題点は採算です。
2021年度の電動バイクレンタル事業の売り上げから保険料や修理代を差し引いた金額を考えると思うような利益は出なかったです。
近年地域におけるモビリティの重要性が高まる一方で、収益が出ないことにはサービスの継続性は見込めないという課題があります。そのことから来年度のレンタル事業では利用料金は変更せずに、利用可能時間を増やすことで、2021年度より高い売り上げとなることを目指して事業を行う予定です。
また昨年度の12月からは電動バイクの鍵を地元の飲食店に見せると特典が受けられるサービスを開始したので、電動バイクの利用時間が増えることは地元のお店にお金が落ちることに繋がると予想もできます。
[電動モビリティの新たなる動き]
2022年3月4日に最高時速20キロ以下の電動キックボードについて、16歳以上は免許なしで運転できる道路交通法改正案が閣議決定しました。
国会で成立すれば、新たなルールは2024年夏までに適用される見通しです。
最高速度は20キロ以下と低速ですが、桜町通りや日和佐浦周辺のエリアを巡るためのツールとしては大いに可能性があると思います。また運転免許書が不要なため、公共交通手段の乏しい地域における高齢者や足の不自由な方に対する移動手段の提供というメリットもあります。
[まとめ]
本事業を行っていくなかで気づいたことは電動モビリティという新しい技術を取り入れるだけでは移動需要は生まれないということです。
地域の活性化を考えるうえで移動需要の創出は切っては切り離せません。
しかし、交通は目的があってはじめて成立します。つまり、移動と観光資源をどのようなストーリーとして提供するかが重要な課題であると思います。
来年度も美波町の地域資源を生かしながら、モビリティを「どのように利用するか」という眼差しや考える場を大切にし、新しい実践を行っていこうと思います。